計測の信頼性に関する用語

2011年2月-7月

音響振動計測に限らず、測定の信頼性の表現として、近年「不確かさ,"uncertainty"」という用語が利用されるようになってきました。


「不確かさ」とは、どのような意味を持っているのでしょうか?


昔、測定単位は各国で異なっていましたが、SI 単位を利用するようになり統一されてきました。
ここで問題となってきたのは、測定結果の品質についての指標です。

「誤差 +/- 1 dB」と「精度 +/- 0.9 dB」、「確度 +/- 1.2 dB」等は、よく耳にする表現ですが、どのような違いがあるのでしょうか?

このような計測の信頼性の用語は、国際度量衡局(BIPM), 国際電気標準会議(IEC),国際標準化機構(ISO),国際法定計量機関(OIML)等の国際機関が編集に携わったVIM:国際計量基本用語集で統一されています。

国内では、JIS Z 8103:2000「計測用語」でVIMに矛盾しないように用語が定義されており、


誤差 : 測定値から真の値 (ある特定の量の定義と合致する値) を引いた値
精度 : 正確さ (かたよりの小さい程度) と精密さ (ばらつきの小さい程度)を含めた真の値との一致の度合い
確度 : ある条件の誤差限界で表す計測器の精度


となっています。
「誤差」の定義は、測定値から真の値を引いた値なので +/-の符号が付くはずですが、「この測定器は、誤差が大きいので当てにならない」というような表現をする場合もあります。これは、「誤差」の性質から、"かたより" を表す「系統誤差」と"ばらつき"を表す「偶然誤差」が定義されていたので、この両方の意味も「誤差」という用語に含まれてしまったためです。

このように、従来からの計測用語は、国・分野の違いにより異なった意味でも用いられてきました。そのため、新たな測定結果の品質指標の決定において、過去からの言葉の概念がない「不確かさ」という用語を導入することになったのです。

「不確かさ, "uncertainty"」は、1993年発行の国際文書「Guide to the expression of Uncertainty in Measurement, GUM (計測における不確かさの表現のガイド)」で、「測定の結果に付随した、合理的に測定量に結びつけられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ」と定義されています。
即ち、「不確かさ」とは、測定の"ばらつき"を表現しています。


「不確かさ」を説明する前に、従来の「誤差」表現について考えてみましょう。


「誤差」は測定値から真の値を引いた値ですが、真の値の定義である「ある特定の量の定義と合致する値」を正確に知ることはできないので、誤差を決定することは不可能です。また、精度や確度のように、ある値に対する幅を意味するものでもありません。更に、系統誤差と偶然誤差の合理的合成方法も明確に決まっていませんでした。

これに対して「不確かさ」は、「測定結果に影響する"ばらつき"や"未知のかたより"となる要因を洗い出し、評価し、それらの合成を行なって、総合的なばらつきの範囲内に真の値と考えられる最良推定値が存在する」という考え方です。


従って、不確かさ表記の測定値は、"真の値と比較して得られる最良推定値"と"ばらつきを表現する不確かさ"で表現されます。

また、ばらつきの表現である「不確かさ」は、信頼水準 95 % ( 95 % の確率で、真の値がこの範囲内にある)で表記されます。
即ち、正規分布の場合、2シグマの値が採用されることになります。


従来、計測器の製品カタログにある許容値は、様々な信頼水準で記載されていました。良い仕様に見せたいため、許容値を標準偏差で表記していた会社もあったと聞いています。

逆に、高性能な計測器の場合は、99.7 % の信頼水準でカタログ表記したものもありました。利用者側は、同価格であれば性能のよい製品を購入したいもので、正しい評価を行なうためにも統一した信頼性表現である「不確かさ」の導入は重要でした。

GUM では、この例のように、製品の性能保証、学会や研究報告の場や計測管理の分野等で、不確かさの表記を推奨しています。

現在、GUM を受け入れているほとんどの著名なメーカは、カタログの許容値を信頼水準 95 % の不確かさで表記しています。そうでない場合は、信頼水準を明らかにして表記しています。
例えば、3560型 PULSE フロントエンドの仕様では、Guaranteed(保証値)として記載している項目もあります。
しかしながら、市場では古いカタログが存在しており、不確かさ表記になっていないものも多く見受けられます。2000年前後以前のカタログ許容値については、製造メーカへ問い合わせられることをお勧めします。



説明してきましたように、製品性能保証や計測管理の分野でも、不確かさの表記が推奨されています。
計測器をご購入いただく場合、その計測器がカタログ許容値を満たしている証明が欲しい、ISO 9000s, 14000s, ISO/TS 16959, ISO/IEC 17025 等の対応が必要、というご要求があります。その計測器の信頼性確認を外部機関へ依頼される場合、「校正」、「検査」、「点検」、「試験」のどの用語で依頼されているでしょうか?

VIMでは、

校正 (calibration) : 計測器又は測定システムによって指示される量の値、若しくは、実量器又は標準物質の表わされる値と、標準によって実現される対応する値との関係を、特定の条件で確定する一連の作業

と規定されています。

「試験」はJIS Q 0043-1 : 1998に、「検査」はJIS Q 17020 : 2000にそれぞれ、

試験 : 特定の手順に従って与えられた製品,プロセス又はサービスについて一つ以上の特性を確定することから構成される技術的作業

検査 : 製品設計,製品,サービス,プロセス又はプラントの調査及びそれらの特定要求事項への適合性の評定,又は,専門的判断に基づく,一般要求事項への適合性の評定

とあります。「検査」については、計測器に於ける「検証, "Verification" : 客観的証拠を提示することによって規定要求事項が満足されていることを確認すること」とほぼ同様の意味となります。

「点検」は、JIS Z 8141 : 2000「生産管理用語」に「設備の劣化防止とその状況を調べる機能を担う方策の総称」とあります。


この事から、計測器の「校正」は、その計測器で測定した結果が真の値の最良推定値との関係を明らかにすることで、国家標準とのトレーサビリティは必須ですが、計測器の製品許容値判定は必ずしも要求されるものではありません。


「検査」は、その計測器が判定基準を満足するかを確認することですので、判定は必須となり、そのためには、多くの場合計測のトレーサビリティが要求されることになります。

「試験」には、「校正」も「検査」も含まれています。
「点検」は、計測器が正常かどうかを調べる方策の総称なので、実際には「試験」も含まれる場合が多いですが、スイッチ等接触不良の確認等の機能確認のみで済む場合もあります。

国内では、ISO 9001の普及がVIMより早かったので、「校正」という用語が間違って利用された事例が多くあったことを、ご理解いただけたのではないでしょうか。

「校正」は、標準によって実現される対応する値との関係を確定するものですので、計測標準にトレーサビリティが取れていなければなりません。

計測のトレーサビリティは、計測標準と値の相関が取れていることはご存知の方が多いと思いますが、実は不確かさも連鎖していなければなりません。

VIM では、


トレーサビリティ: 不確かさがすべて表記された、切れ目のない比較の連鎖を通じて、通常は国家標準又は国際標準である決められた標準に関連づけられ得る測定結果又は標準の値の性質


と、規定されています。

従って、トレーサビリティを要求される「試験」には、不確かさの評価が必要となります。
外部校正依頼をされる場合に、「3点セット(校正証明書、試験成績書、トレーサビリティ体系図)」という言葉を耳にしますが、実は「校正」依頼することでトレーサビリティが確立した校正値と不確かさ記載のある試験成績書が発行されるべきものです。

しかしながら、各校正機関とも、すべての量で「校正」に対応できている訳ではありません。

「3点セット」は、校正に対する認識が充分でなかった頃には、それなりに意味がありましたが、これからは、発行される証明書(成績書)に校正値(測定値)の他、「不確かさ」や「トレーサブル宣言(ロゴマークも含む)」の記述の有無をご確認いただくことが重要です。





  
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