2010年2月、4月
今回の話題は、ブリュエル・ケアー騒音計の歴史です。
ブリュエル・ケアーが最初に“Precision Sound Level Meter”という言葉を使った機種は、テレビサイズの真空管計測用増幅器と25.4mm口径のマイクロホン付カソードフォロア(真空管式プリアンプ)を名目的にバッテリ動作可能というものでした。しかし、A重み付け特性、RMS検波器、Fast/Slowの時間重み特性など主要な仕様はすでに存在していました。
その後、1960年に2203型は単品の製品で“Precision Sound Level Meter”として発表されました。音波の干渉を避けるためのマイクロホンの周辺を円錐形状のデザインや、コンデンサマイクロホンの外部偏極電圧(200V)などを単1電池3本から作り出す電源回路が採用されていました。初号機の騒音計は本体にミニチュア真空管が組み込まれていました。当時は真のRMS検波器が画期的なものであり、変動する針式メーターの表示を目視でdB値を読み取るものでした。
2203型精密騒音計の量産モデルは、真空管はFETに交換され、12.7mm口径のマイクロホン、グースネック、フィルタシステム、ウィンドスクリーンなどのアクセサリを利用できるようになりました。これらの設計が実質的に騒音計の基本デザインとして定着することになりました。
その後、2209型Impulse精密騒音計や積分騒音計(Leqメータ)が登場しました。さらに1978年には画期的なディジタル表示の2210インパルス精密騒音計(IEC 651Type 0:研究室級)と2218型インテグレーティング精密騒音計(Type 1)が、2203型の円錐形状のボディに基づいて発表されましたが、これらは普及せずに、次の第2世代の騒音計に移行しました。
1983-85年になって、IEC 651 Type1(JIS C1505)をベースとした積分表示(Leq)機能を標準装備した、2230、2231、2233、2234型精密積分騒音計が次々に発表されました。これらは、1秒Leq、1秒LFMAX(または1秒LSMAX)、1レンジで70dBの液晶ディジタル表示器と単3電池4本の電源回路などを備えた、共通プラットフォームとなりました。これらの積分平均(Leq)機能の技術は、1985年にIEC 804に発行に貢献しました。
その後、1988年にJIS C1505は、IEC 651(1979)とIEC 804(1985)の両方を取り込むことになりました。IEC 651 Type 1は20 kHzまでの上限レベル許容値を規定していますが、下限レベル許容差については12.5k Hzまでしか規定されていません。つまり、12.5 kHzから20kHzの周波数範囲におけるマイクロホンの感度はマイナス無限大でも良いわけです。ある意味、この時代では16kHzオクターブ帯域の音は技術的に可能であってもコスト的な理由で、計測の対象として軽視されていました。
この第2世代の普及機種で、新開発の12mm口径の4155型偏極マイクロホン(B&Kでは背極を帯電化)を採用することで、16 kHzまでをカバーし、さらに外部偏極電圧が不要であるため、騒音計の本体を小型にすることができました。一方、上位機種の2231型は、外部偏極電圧(200V)を装備しているため、高性能マイクロホン(4133型)と延長ケーブルを使用時に、IEC 651 Type 0を満たすことができました。つまり、Type 0という研究室用の測定グレードを達成するためには、40 kHzまでカバーするマイクロホンと、本体との干渉避けることが必要でした。さらに、日本市場の話題として、計量法の精密騒音計の検定検査規則が、ディジタル表示に断続表示による瞬時音圧レベルを要求していました。これに対応して、2234型は1秒LFmax(または1秒Lsmax)の代わりに瞬時音圧レベルを備えることになりました。現在の騒音計では、多種類のパラメータを同時に測定できるのですが、この時代はハードウェアに依存する時代でした。
1993年には、より鋭い円錐形状を備えた2236型精密積分騒音計を発表しました。2236型は一段と優れた積分騒音計です。この設計方針が、後に登場するIEC 61672(JIS C1509)の先駆けとなりました。さらに、その後継である、2237型、2239型、2238型を経て、FFT分析やインテンシティメータにまで拡張できる2260型にまで引き継がれました。
これらの機種は騒音計のデザインとして第3世代と呼ぶことができます。(これらの詳細は、弊社のWebなどで2238、2260型の特徴的な形状をご覧ください。)技術的な特色は、ディジタル処理は内部に限らず周辺機器へのインタフェースとそれに対応したデータ処理ソフトウェアにも及びます。現実に、この世代の騒音計に共通する規格は、前述のIEC 61672(JIS C1509) 規格の審議過程と共に技術仕様が更新されたため、準拠規格としてはIEC 651(1979)とIEC 804(1985) Type 1(JIS C1505)ということになります。不自然な印象を持たれるかもしれませんが、規格が決定されてから開発するという時代ではなくなっています。
また、IEC 61672(JIS C1509)規格のクラス1、クラス2という等級は、旧規格に基づく普通級や精密級と完全互換ではありません。旧規格の「許容差」は、「拡張不確かさ」によって定義されています。結果として、新規格が要求する数値は許容範囲が広くなったような印象を受けますが、実際には許容範囲を区分する境界線が参照信号(音響基準)自身の「不確かさ」を考慮して太い区分線を想定することになるため、騒音計に許される実質的許容範囲はその太い区分線の内側がとなるため、相当に厳しい性能を要求していると言えます。
このIEC 61672に対応したJIS C1509の名称は、騒音以外に多様な音などを測定する道具として「騒音計」という言葉が好ましくないということなどを配慮して、「サウンドレベルメータ(騒音計)」ということになりました。IEC 61672まだ進行中の規格なので、現在、61672-1(Part 1: Specifications)、61672-2(Part 2: Pattern evaluation test)が発行されていますが、その続編も審議中です。
2004年には、人間工学的設計と携帯情報端末(Portable Digital Asistant:PDA)にもとづく斬新な設計思想によって、2250型(正式名称はハンドヘルドアナライザ)が発表されました。2250型の基本常駐ソフトウェアはサウンドレベルメータ(騒音計)の機能を提供します。姉妹機種として、普及版の2250Lightや2チャンネル版の2270型も同様に。ポータブルアナライザという名称です。これらは、適切なマイクロホンと組み合わせることで第4世代の騒音計と呼ぶことができます。そのダイナミックレンジは120 dBを超え、各種の評価分析手法や、IT端末へのネットワーク接続やリモート校正などを提供します。この豆知識としては知っていただきたいことは、第3世代の最後から第4世代の騒音計の中身は完全にディジタル化されているため、それらの騒音計のAC出力信号は、マイクロホンの後に続くプリアンプのアナログ信号を、AD変換器とDA変換器を経てアナログに戻して、AC出力端子に出力されていることです。一見、非常に無駄な印象を受けますが、分析されている音をそのまま記録しながら、同時に同じ音を耳で聴くことができます。もちろん、A重み付け特性もディジタル信号で処理されて、出力端子からアナログの交流信号として出力されています。と言うわけで、騒音計のデータ処理技術は非常に完成度の高いものになりました。それでも騒音計の基本性能はマイクロホンの基本性能とその特性の維持管理方法が課題となります。気象条件などの環境の影響を受けて、何時からどの程度に変化したかを知ることが重要です。特に屋外で長期間放置して使う場合に、どのデータまでが正しいデータであるかを知りたくなります。リモート操作による一日に数回程度の簡単なチェックによって、騒音計の初期性能に重要な変化の有無を調べる技術が有効となります。そのために、ブリュエル・ケアーでは電荷注入校正(CIC)を採用しています。
(このCICについては、別の機会に紹介します。)