Paとパスカル

2008年4月、5月

 
 今回は音圧の単位のPaに注目します。Paは、Pascalを省略したものですが、国際(SI)単位系における圧力や応力の単位として1Pa(パスカル)=1N/m^2と定義されています。もちろん、この名称は17世紀フランスの数学者、物理学者である、ブレーズ・パスカル(Blaise Pascal)に因んだものです。

 ところで、カタログや報告書の「dB表示」で疑問に思ったことはありませんか。サウンドレベルメータ(騒音計)で測定されたdB値は、一般には、騒音レベル(A特性音圧レベル)を意味していますが、音響パワーもレベル表示する場合にdBを使うことがあります。また、電気音響の分野では相対値や感度として表すために利用することもあります。

 dBを単位のように使ってよい理由は、その基準(reference)として、パスカル(Pa)やワット(W)などの絶対単位を定義しておき、その基準値の数字と絶対単位を利用して、相対値であるdB値から絶対値に変換できるからです。

 音圧計測の世界では、dBの基準値(0dB)は20μPa(マイクロ・パスカル)つまり20×10のマイナス6乗パスカルを使います。ただし、Paはパスカルと読み、そのdB値は基準値との比の常用対数の20倍を利用します。

 音響パワー計測の世界でも、dBを利用します。その基準値は1pW(1×10のマイナス12乗ワット)となります。ただし、Wはワットと読み、そのdB値は基準値との比の常用対数の10倍を利用します。また、騒音源のラベリング表示においては、音響パワーレベルと音圧レベルの両方の表示が要求されています。ISO 7778(JIS X7778)では、区別するために音響パワーレベルはB(ベル)、音圧レベルはdBとしていますが、それらの表示値を計算するプロセスでは、音響パワー計測をdBとして取り扱うため、常にdBの基準値を注意しなければ、見かけの数字が異なるため、混乱することが良くあります。

 音源探査の音響パラメータでは、音圧も利用しますが、音響インテンシティや粒子速度も利用します。音響インテンシティでは1pW/m^2(1×10のマイナス12乗ワット毎平方メートル)、粒子速度では50nm/s(50×10のマイナス9乗メートル毎秒)を基準値とします。

 このように、音源探査のための先進的音響計測や表示音響パワーレベルのdBの基準値は、20μPaに統一できないため、初心者は十分に注意しなければなりません。基準値を明記されていないdBは「落とし穴」のような状態になります。よって、「dB re. 20μPa」が表示されていると、非常に安心できます。

 また、電気音響では、Paに関係する別の定義が良く使われます。

 電気音響の世界の常識としてdBは相対値です。電圧や電流、センサーの感度にも適用します。よって、絶対値を意図したdB値には必ず基準値を付けて表現します。例えば、マイクロホンの感度では単位パスカルあたりの出力電圧1V/Paを0dBと定義します。

 1インチマイクロホンの感度50mV/Paは-26dB re. 1V/Paと表記します。実際の感度が47.5mV/Paであれば、-26.47dB re. 1V/Paとなるため、この場合のdB値は減衰量として負の値を積極的に使います。

 さらに、センサーの相対感度が0.47dBだけ少ないので、その感度不足をアンプ側で0.47dB増幅することで、感度補正します。ここで、このdB値はその符号と増幅または減衰に注意しなければなりません。この場合には、符号付きの相対値となります。また、インテンシティ法音響パワー計測の校正においても、2つのチャンネルを音圧校正することで、インテンシティの校正を行うことができます。ただし、空気中における平面自由進行波の音響インピーダンスの420 N・S/m^3を400 N・S/m^3と近似した場合の誤差は0.16dBとなります(一般にこれは無視されます。)

 というわけで、dB re.20μPaの「20μPa」は非常に重要な使命をもっていて、パスカル(=1N/m^2)単位(絶対値)への変換を表しています。昔の資料や文献では、0.0002μBar(バール)または2×10^-10 Barという非SI単位系で表示されることもあります。

 もう少し20μPaの意味に注目しましょう。音の振幅を物理的な圧力変動対数圧縮して表示されているのが音圧レベルですが、それは、その20μPaは実効値(RMS)であることです。Paで表現されていますが、正弦波成分と仮定すれば、時間波形としては±√2×20μPaの音圧(圧力の交流成分)を意味しています。

 日本の気象学では、大気圧の単位をミリバール(mbar)を使っていましたが、1992年12月から単位だけをヘクトパスカルに変更されました。1 バール (bar) = 100 000 Pa、1 ミリバール (mbar) = 100 Pa = 1 ヘクトパスカル (hPa)という関係があるので、大気圧の1013mbarは数字をそのままにして、1013hPaのように、単位の交換だけで国際単位系に変更できたわけです。変更直後には違和感がありましたが、毎日の天気予報のおかげで、ヘクトパスカルはすっかりおなじみになってしまいました。
 
 また、単位としてのパスカルは、音圧以外にも使われています。流体においては圧力の単位です。機械力学では、物体を連続体として扱う場合に、応力の単位としても使われます。
 
 最後に、人物としてのパスカルを紹介します。哲学者、思想化、宗教家であり、その代表的著作物として「パンセ」という随筆集が有名です。「人間は考える葦である」や「クレオパトラの鼻がもう少し・・であれば、」など良く引用されます。

 この随筆集は彼の死後にまとめられて出版されたものであり、パスカルの晩年は科学者ではなくて「宗教家」であったことは、非常に興味深いことです。というのは、騒音や音響計測の技術議論で「20μPa」を使うたびに、実は「科学を超えなければならなかったパスカル」の名前を使って議論するのですから。

  
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