2008年7月, 8月
「5球スーパー」をご存知でしょうか。これは、5本の真空管を使ったスーパーヘテロダイン方式のラジオの愛称です。今や、真空管ではなくて、トランジスタを経てICに置き換わっています。ですが、この省略された「ヘテロダイン」は、現代のラジオやテレビの受信機や携帯電話、もちろん音響振動分析器にも使われています。
ヘテロダインは、真空管が実用化されていない時代に、発明された技術です。それは、受信機側の局部発振器と無線信号を干渉させて、可聴信号に変換(復調)させるというものでした。しかし、第一次大戦中に、無線機のトラブル(偶発的な発信)に出くわした発明家が、その近くの無線機が異なる周波数帯域にてその信号を受信できることを発見しました。
これは、効率の良い周波数帯域に移動させて、混信を避けて通信するために、スーパーヘテロダイン(Superheterodyne)として、無線機において広く利用されました。そのヘテロダインの原理は「2つの周波数を混合すると、新たに2つの周波数(元の周波数の和とそれらの差)が得られる」というものです。
このように、ヘテロダインの技術は、真空管の実用化と前後して、高周波数の無線通信に活用されました。しかし、低周波数である可聴帯域(オーディオ)周波数にも大変に役立つ技術でした。B&Kではレベルレコーダを中心とした分析システムにおけるBFO発振器やヘテロダインアナライザに利用されました。
このBFO(Beat Frequency Oscillator)はヘテロダインの原理を利用したものです。例えば、120kHzの固定周波数と120k-100kHz可変周波数の2つを混合させて得られる、和と差の周波数成分によるビート信号に、20kHzのローパスフィルタを使うことで、DC近傍から20kHzまでの極めて高品質な正弦波信号が得られます。
この可変周波数をレベルレコーダの紙送りと同期を取って対数的変化させること、つまり、正弦波信号を対数掃引すると同時に、対数周波数軸を印刷した記録紙に、周波数特性(f特)が得られるわけです。発展的には、固定周波数と可変周波数の信号を、受動的に連動する狭帯域分析用フィルタ回路の中心周波数の制御にも利用できました。
ディジタル時代に入っても、FFT分析のベースバンド分析やズームFFT分析もヘテロダインの延長技術として考えることができます。つまり、サンプリング周波数(Fs)とナイキスト周波数(=Fs/2)によるエリアス(折り返し)現象と、それを防止するアンチエリアシングフィルタの関係は、ヘテロダイン原理を知ってから理解すると、より深みをもって理解できます。
理解のポイントとして、FFTにおいて分析信号をAD変換器でサンプリングプロセスは、ラジオ受信機において高周波数の受信信号と局部発振器の信号を混合器に入れることと、類似のプロセスです。ヘテロダインの原理から、和の周波数として現れるナイキスト周波数の前後に発生するエリアスを避けるために、ローパスフィルタを使って、差の周波数に相当する信号を離散化することができます。
さらにその後で、離散フーリエ変換(DFT)を適用しますが、そこでは、既知の離散化された回転要素を掛け算(混合)と平均(ローパスフィルタ)処理によって、各回転要素の周波数に対応した振幅と位相成分が得られます。このDFTの計算プロセスも対象信号と既知信号間のヘテロダイン処理と考えることもできます。
また、特定の周波数や回転信号の影響を調べるために、ヘテロダインを使って、信号に含まれる振幅と位相を含む波形を抽出することもできます。さらに、既知の信号発生器で駆動して得られる応答を利用して、被測定対象の特性を調べることもできます。
わずかな信号を間違いなく検出するには、適切な参照信号を受信機側に持つことが要点となります。5球スーパーの時代であっても、現代のFFT分析器においても、その中心部に「ブレない」ローカルオシレータ、人間に例えると「強い信念」に相当することかもしれません。
2010型ヘテロダインアナライザ
