2009年6月
自由音場補正(free field correction)は、音響計測や電気音響機器の専門家において古くから知られている技術の1つです。これは、複雑な音場にて適切な音響計測を行うために、知っておくべきことですので、長くなりますが取り上げることにしました。というのは、人が直接に耳で聞く音は個人によって異なる、さらには計測用マイクロホンや騒音計の測定結果も必ずしも正確ではないことに、深く関係しているからです。
騒音計や計測用マイクロホンは音を正確に測定するためのものです。
その物理形状が(相対的に無視できるくらいに)小さいことが重要です。どうして形状の寸法が重要なのでしょうか。単純な回答は、大きいマイクロホンはその大きさに比例して音場そのものを乱すことになるからです。逆に、小さいマイクロホンは音場を乱さないと言えます。1つの理想として、なるべく口径の小さくて高感度かつ低ノイズのマイクロホンは自由音場補正が少ないため、どのような音場においても、任意の測定方向であっても再現性の良い測定が行えることになります。
では、一般に使われているマイクロホンと専用プリアンプの組み合わせでは、どのようなことが発生しているのでしょうか。ある大きさをもった形状を置くことで、その周辺において波動の回折や干渉の効果によって音圧感度の変化が、音の到来方向に依存して発生します。その結果、同じマイクロホンであっても、カプラの中の感度に比べて、自由音場では大きく感度が変化することになります。これを自由音場補正と呼び、マイクロホンに対する入射方向の関数として周波数軸上のdB値として表現できます。正面方向から音波が入射する場合、マイクロホンの直径が1波長に相当する特定の周波数帯域11dB近くも感度が上昇します。その場合の周波数は、1インチマイクロホンでは13.5kHz、1/2マイクロホンでは27kHzです。さらに、1/4マイクロホンでは54kHzになります。少し議論を拡張させます。自由音場補正は主にマイクロホンに使われていますが、マイクロホン自身の存在が音場を乱す原因となることにお気づきでしょうか。つまり、騒音計の本体や人の存在(頭部や胴体)の物理形状も狭い意味で音場を乱すため、理想的な音響測定のためには、好ましくない。さらには、現場にて直接耳で聞く音さえもが個人によって異なる、という結論が出てきます。そこで、データを正確に比較するためには、マイクロホン、騒音計、ヘッドアンドトルソシミュレータ(HATS)の形状が音場に及ぼす影響(自由音場補正)を修正して、平坦な周波数特性のマイクロホンで測定した結果を等価的に算出する方法が利用されます。そのような目的のために、B&Kの各製品に添付される校正表やデータディスク、マニュアルなどに、入射角度に依存した自由音場補正の周波数特性の代表値が提供されています。
繰り返しになりますが、自由音場補正とは、物理的寸法を持ったマイクロホンを自由音場に置いた場合と、マイクロホンを置かない場合の状態に比べて、実際に適用するマイクロホンの膜上の音圧が上昇するのでこれを補正することです。このような自由音場における感度変化の実際は、外的要因としてマイクロホンとプリアンプの外観物理形状よる周辺音場における音波の乱れ(回折や干渉など)と、内的要因としてダイヤフラムと背極の設計(膜共振の音響的減衰の付加、背極の穴径と数など)の総合効果にて決定されます。音圧音場型マイクロホンはカプラ内またはフラッシュマウント時における音圧が周波数特性にて平坦になるように、設計されています。よって、このマイクロホンを自由音場で使えば、音波の入射方向を関数として自由音場補正が加算された特性になります。そこで、自由音場において音源がマイクロホンの軸方向(膜の垂直、0度方向)にある場合に、マイクロホンの周波数特性が平坦になるように、設計された自由音場型マイクロホンが開発されました。方法としてダイヤフラムの膜共振と背極の形状設計によって、自由音場補正の影響を平坦化する音響等価器が内部に組みこまれています。この音響等価器はその他の入射音波にも一様に作用するため、拡散音場においては、真値に対して過小評価することになります。これは無響室における電気音響機器の測定や騒音計測で広く利用されています。JISやIEC規格適合の騒音計のマイクロホンはこの自由音場型です。ANSI規格は拡散音場型マイクロホンを要求していますが、これを自由音場で利用する場合には、周波数特性が平坦になる角度に、マイクロホンを向けて使うことになっています。その適用角度は測定器の製造メーカーが指定します。このような議論は、波長が騒音形や人の頭の寸法より長くなるような、比較的に低い周波数では不要です。1kHz付近(波長34cm)から影響し始めて、前述のようにマイクロホンの直径が1波長となる周波数において最大の感度上昇を示します。一般向けに、提供されるデータは、音波の到来方向(入射角度)をパラメータとした、縦軸dBの周波数応答曲線として示されます。つまり、理論的には無指向性であるべきマイクロホンが、音源に対するマイクロホンの向きによって、測定値が変化します。
無響室や半無響室を想定した測定では、この自由音場型マイクロホンで十分ですが、一般的には、複数の音源、反射面や吸音面で構成される、自由音場でも拡散音場でもないような音場においては、マイクロホンが自由音場型、拡散音場型、音圧音場型の分類があっても、どのマイクロホンをどの方向に向けるかを適切に決めることはできません。測定現場や試験検証において結果の信頼性に関する議論が繰り返されてきましたが、将来的には、人の耳に聞こえやすい周波数成分を含む測定現場が増えることが予想されるので、誤差の要因となる自由音場補正が少ない、小口径のマルチフィールドマイクロホンは非常に良い解決策となります。
