FFT:高速フーリエ変換
2008年1月、2月
前半:
フーリエ変換を高速に計算する手法が1960年に論文発表されて以来、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)をFFTと呼ぶようになり、1970年代から専用機器やCPUの高性能化に伴って、広く利用されるようになりました。この方式の分析器そのものを「FFT」と呼ぶ時代になりました。
これは適切な呼び方ではありませんが、皮肉なことに、現在は筐体に入ったFFT分析器が少なくなってきました。また、その分析結果をFFTと呼ぶことはOKです。このデータを1/3オクターブ分析と混同しないことが大切です。
FFTはアルゴリズムを意味する言葉ですから、自作のソフトで計算する方法も立派なFFT分析です。また、FFT分析の結果からCPB(オクターブ)分析に合成することや、より高度なチャンネル間の位相情報を利用するマルチチャンネル分析のクロススペクトルを得るためにもFFTは利用されています。それほどまでに、FFTは計測器のディジタル化において最も成功した例の1つと言えます。
前回の記事で紹介したように、フーリエ変換の関係を用いれば時間信号は周波数スペクトルに、計算によって置き換えることができます。具体的には、周期成分を含む時間信号に、対応する正弦波成分を乗算し、その結果に含まれる求めるべき周期成分のDC成分(直流)振幅だけを取り出すように、無関係な交流成分を除去する平均(ローパスフィルタ)処理を行うことです。
この1つの周期(周波数)成分の変換のプロセスは、かけ算と平均(たし算とわり算)のセットであるため、積和計算とも呼ばれます。この一連処理は、1つの周期信号をスペクトルに置き換える積和計算はわずかな計算量です。
しかし、不特定の周波数成分を含む信号を分析する場合には、無限個の周期信号が含まれる可能性があるので、工学的な妥協が必要になります。そこで便宜的に「有限長のデータ」と限定すること、さらにそのフーリエ変換の高速計算方法が必要になります。
後半:
先月の高速フーリエ変換の前半では、FFTは1960年に発表されたフーリエ変換を高速に計算するアルゴリズムですが、1970年代から専用機器や計算機の高性能化に伴って、その見かけの形を変えて、広く普及したことを紹介しました。後半として、その本質、特長、注意事項を取り上げます。
原理的には、すべての周波数成分を含む信号を周波数に置き換えるためには、信号を記録するだけで無限の時間が必要になります。そこで、対象とする信号の周波数範囲の成分を含むような時間信号を想定して、便宜的に有限長のデータを対象として、この積和計算を早く計算するためのアルゴリズム(FFT)が開発されました。
ここで、重要なことは、計算の対象とすべき周期信号を有限の長さに限定しておくことで、それら周期信号に対応する周波数成分を抽出するための(積和)計算は限定的なもの(つまり有限の処理時間)にできる訳です。限定することが工学的な妥協点であり、どのように限定すれば、どのような効果になり、どこまで使えるかを知っておかなければなりません。
有限長という制限を使いましたが、計算対象となる離散化された時間信号データを2のべき乗個(128、256、512、1024等)に固定することで離散フーリエ変換(Discrete Fourie Transform;DFT)の計算を早くできることが、FFTの特長です。
有限個数のデータに対応して、FFTの周波数分析で利用できるライン数は50、100、200、400等に限定されます。これは、時間の領域においてについて制限を加えたことが原因です。つまり、人為的に加えられた操作(時間窓)が周波数領域に直接に反映された効果(分解能、フィルタ特性)をもたらします。
分解能の具体例を述べます。時間軸の1秒を対象とすれば周波数分解能は1Hzとなり、時間軸の10秒を対象とすれば周波数分解能は0.1Hzとなり、時間軸の100秒に対して周波数分解能は0.01Hzとなります。逆に、短い時間を分析するためには、その対応する周波数分解能は悪くなります。0.1秒では10Hz、0.01秒では100Hzの分解能になります。
この関係は、FFT計算の理論根拠であるフーリエ変換から出てきたものです。上記の制限がFFT計算技術に不備があるわけではではなくて、数学としてのフーリエ変換の本質的に基づくものです。周波数分析において高分解能を得るためには、分析対象として必要な時間が長くなり、またその期間中に信号の性質が変化することがあれば、得られる周波数分析の結果は不鮮明なものになってしまいます。これらの議論は、時間と周波数における不確定性原理と呼ばれることもあります。
まえおきの説明が随分長くなりましたが、豆地知識としてまとめます。
カメラの画像を静止画や動画においても、類似の理論や現象が発生します。FFT分析においても、少々面倒ですが、工学的な道具と割り切って、FFTのくせを見抜いて、上手く付き合うことが大切です。そのための注意点は、信号の性質(定常または非定常など)に基づいて、窓関数(ハニング窓)、実効帯域幅、オーバーラップ平均、トリガなどを使うことです。ちょうど、デジカメになっても、レンズや絞り、シャッタースピードやオプション機能を適切に使うこと似ています。もちろん、FFTにも素人向けの「簡単モード」も専門家向けの「詳細モード」、または特定のアプリケーションに「限定モード」もあります。
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