エバネセント波と進行波

2009年9月

 今回は音の発生メカニズムと音の種類について考えることにします。楽器の発音プロセスには、適切な振動源、一定の周波数で共鳴または共振させて、直接の発音源より効率良く放射する、何らかの仕組みが組み込まれています。

 例えば、弦楽器の弦は発音源ですが、その波長を効果的に共鳴させるために一定の大きさの胴体による空間が必要です。ここまでは、比較的理解しやすいと思いますが、音のエネルギーが胴体で共鳴する以外に、胴体の表面を伝わってその表面が振動する波があります。つまり、振動、音、振動、音というエネルギーのキャッチボール(反復)を経て、周辺の空間に音が放射されます。また、部屋やホールの壁面にて反射・吸収されたり、さらにその壁面にて音響空間と構造の表面の間でエネルギーをキャッチボールすることもあります。

 ここで注目したいのは、振動から音に変換された後で、その音のエネルギーが振動エネルギーに変換されること、場合によっては、元の発生部位に戻ることもあることです。低い周波数の振動エネルギーはその周辺の音場に放射しようとしますが、周辺の空気は簡単に振動面の裏側に回り込むため、元の振動面との間で反復するだけの状態となります。振動から音場への作用に対して音場側から反作用がない状態です。イメージとしては「のれんに腕押し」状態であるため、良く振動していても音は放射されません。このような波はエバネセント波と呼ばれています。

 このエバネセント波は振動面の近傍のみに存在する音波です。エバネセント波が存在する場所では、位置による音圧振幅の変動が大きくなるため、通常はこの波の影響を受けない距離にまで離れて音圧を測定します。さらに、その結果から音響パワーを求めます。近距離場音響ホログラフィでは、この波から振動源の位置情報を得るために、近距離測定によってエバネセント波を積極的に利用します。

 一方、比較的高い周波数であって、剛な振動表面であれば、振動に戻ることなく、音響空間に効率良く放射されます。このような音波は進行波と呼ばれ、振動表面には戻らずに、遠方まで伝わることができます。ビームフォーミングによる音源探査はこのような進行波を測定対象にしています。その他にも、構造を伝わって別の部位から再放射するもの(固体音)、直接に透過するもの(透過音)、または穴や隙間から漏れるもの(リーク音)もあります。これらは、元の発生源の参照信号と極めて高い相関関係があるため、1つの音源(コヒーレント音源)として因果関係を持つことになります。

 よって、これら現象は、外見的に独立要素の音源のように見えたとしても、共通の位相関係の存在を根拠に、他の独立音源(インコヒーレント音源)と区別しなければなりません。例えば、エンジン振動、透過音、排気音などでは、同一要因を共有しています。特に、各部位からの寄与を求めるためには、注意が必要です。
  
エバネセント波と進行波
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